2022年6月に発売されたプロダクトマネジメントに関する書籍「ラディカル・プロダクト・シンキング イノベーティブなソフトウェア・サービスを生み出す5つのステップ」を読んだので、その学びをまとめようと思います。
このタイミングで本書を手に取った理由は現在仕事でプロダクトビジョンの策定にチャレンジしているからです。本書のタイトルにもある「ラディカル・プロダクト・シンキング」はプロダクトビジョンと深く関係している考え方なのでタイミングとしてはベストかなと思い読みました。
本書はシリコンバレーでプロダクトマネージャーをされている曽根原春樹さん監修ということで、現役プロダクトマネージャーの方の中には既に読んだ、という方も結構いるのではないかと思います。ずっと読みたいなと思っていたのですが、ようやく読みます。
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ラディカル・プロダクト・シンキングとは
本書では序盤でラディカル・プロダクト・シンキングとは以下のように定義しています。
ラディカル・プロダクト・シンキングとは、世界にどんな変化をもたらしたいかを考えながらグローバルマキシマムを探し求める態度
「ラディカル・プロダクト・シンキング イノベーティブなソフトウェア・サービスを生み出す5つのステップ」より
「グローバルマキシマム」というワードが出ましたが、本書では、ラディカル・プロダクト・シンキングを語る上で以下の2つの”考え方”と、2つの”プロダクト作りのアプローチ方法”が重要な概念だと説明されています。
- ローカルマキシマム(局所最適化)/グローバルマキシマム(全体最適化)
- イテレーティブ型/ビジョン駆動型
それぞれの内容については以下で説明します。
ローカルマキシマム(局所最適化)とグローバルマキシマム(全体最適化)
言葉のとおりですが、企業が何かしらの施策を行う場合、以下の2つの考えに基づくと思います。
- 短期的な最適解を選ぶ
- 長期的な最適解を選ぶ
目先の利益だけを求めて本当に重要なこと(ビジョンかもしれないし本当に解決したい課題かもしれない)を見落としてしまう・無視してしまうことをローカルマキシマム(局所最適化)と呼びます。
逆に成果が出るまで時間がかかるかもしれないけど常に長期的な目線で自分達が実現したい世界、本当に解決したい課題の解決につながる手を打つことをグローバルマキシマム(全体最適化)と呼びます。
本書では、過去にローカルマキシマムを優先して失敗してしまった企業の話が書かれています。
単にローカルマキシマム(局所最適化)がダメでグローバルマキシマム(全体最適化)が良い、というわけではありません。企業が経済活動を行ううえで(さまざまな理由により)暫定的な施策を講じなければならない場合もあると思います。
ただ、そのようなときは常に「自分たちはどこに向かっているんだ?」を考えたうえで今はイレギュラーに目先の利益を求めて施策(遠回り)をおこなっていることを認識することが重要です。
しかし、長期的なビジョンがそもそもないとどのような策もローカルマキシマムになってしまいます。(目指すべきゴールがないですからね)
ラディカル・プロダクト・シンキングの定義である「世界にどんな変化をもたらしたいかを考えながらグローバルマキシマムを探し求める態度」の「世界にどんな変化をもたらしたいか」がビジョンとなる。(企業のビジョンでも良いし、プロダクトビジョンでも良い)
ちなみにTwitterはローカルマキシマムを優先した結果、大きな成功を収めることができたみたいですが、このケースの方が珍しく表に出ていないだけで多くの企業がそれで苦い思いをしているとのことでした。(Twitterはピボット後のサービスなんですね)
イテレーティブ型とビジョン駆動型
先ほどのローカルマキシマムとグローバルマキシマムと関係する内容ですが、プロダクト開発において以下の2つの進め方があります。
- イテレーティブ型
- ビジョン駆動型
イテレーティブ=反復という意味です。
本書で読んでいて、とても印象的なワードがこちらです。
リーンとアジャイルは目的地を示さない
「ラディカル・プロダクト・シンキング イノベーティブなソフトウェア・サービスを生み出す5つのステップ」より
プロダクト開発においてリーン・スタートアップという考え方が浸透し、どんどん失敗して、どんどん学んで改善していくことに力を入れるべきということが広まっていますが、これはプロダクトがビジョンを持っていることが重要です。(リーン・スタートアップは「リーン・スタートアップ ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす」で詳しく解説されています)
リーン・スタートアップを適用してプロダクト開発を進めいっても「このプロダクトのゴールはここだ!!!」が見えてくることはまあないでしょうと書かれています。
一方、ビジョン駆動型で考えることこそがラディカル・プロダクト・シンキングであり、プロダクトづくりをはじめる前に世界にもたらしたい変化(ビジョン)を思い描くことが重要と強調されています。
イテレーティブ(反復)型とビジョン駆動型(ラディカル・プロダクト・シンキング)の違いは以下の図のように表すことができます。

大きな違いはイテレーティブ型の場合はイテレーティブによりビジョンが変わっていき、次の目的を決めていくのに対して、ビジョン駆動型(ラディカル・プロダクト・シンキング)の場合はビジョンはほとんど変わらずイテレーティブがビジョン(ゴール)に行くまでの進み方を調整していくことにあります。
ビジョンがブレブレかほぼブレないか、ということですね。
イテレーティブ(テストして仮説検証→改善)自体はとても良いことで、大切なのはその使い方です。まずはプロダクトビジョンを設定することが必要です。
プロダクト病
明確なビジョンと戦略がないままイテレーティブを繰り返すと、プロダクトは肥大化したり、方向性を失ったり、誤った数字に引っ張られたりし、その状態になることを本書ではプロダクト病と呼んでいます。
本書ではプロダクト病として以下の7つが紹介されています。この記事では中でも「自分が陥りそうだな…」と思った太字の3つを取り上げます。
- ヒーロー症候群
- 戦略肥大
- 脅迫性セールス障害
- 数値指標依存
- ロックイン症候群
- ピボット症候群
- ナルシシスト症候群
残りの4つも気になる!という方はぜひ本書を読んでみてください。
戦略肥大
どんどん舞い込んでくるアイディアや要望につい「イエス」と答えてしまい、何から手をつけたら良いのかがわからなくなってしまう状態を戦略肥大と呼んでいます。
プロダクトマネージャーとして「No!」と言うことは大切であるとよく耳にしますのでまさにこういう状況になるから、だと思います。(よくカンファレンスやnoteでのこの手を話はよく見ます)
- 何をやるかではなく何をやらないかが重要
- 機能を多くすることが必ずしも成果に繋がるわけではない
この辺り、PdMとして自戒して心掛けていこうと思っています。
脅迫性セールス障害
顧客から「この機能を実装してくれたら契約します」と言われて言われるままに実装したことはありませんか?
これこそが脅迫性セールス障害です。
前提として、プロダクトビジョンに合致する機能なら良いと思っていますが、そうではない場合、まさに目先の利益を優先するローカルマキシマムとなります。
ただ、これ自体が悪なわけではありません。企業が経済活動を行ううえでは短期的な利益を取りに行くことはやむなしな場合もあると思います。長期的な利益だと見据えてプロダクトを作っていても企業が存続できなければ一生ビジョンを達成することはできません。このトレードオフは現実世界で往々にして発生しています。
重要なのはその頻度であり、頻繁に需要を満たすために長期的な目標をないがしろにすることを避けなければなりません。
若干話はそれますが、ユーザーは自分が本当に欲しいものがわかっていないとよく言われています。ユーザーから「この機能が欲しい」と言われたら「OK、つくります!」と即答するのではなく一歩下がった場所から
- なぜこの機能が欲しいと思ったのだろう?
- どのような操作をしたときにそう思ったのだろう?
- ユーザーは何をしたいんだろう?
など、その要望の奥にある真の要望を探ることが重要です。
以下の記事にも同じようなことを書きました。

ナルシシスト症候群
顧客の課題解決ではなく企業の目標達成ばかりを考えしまっている状態がナルシシスト症候群です。
(ラーメン、つけ麺、僕イケメーーーーーーン!!!ではない)
プロダクトは何かしらの課題を解決するために存在しますが、企業の事業目標を達成するためにも存在します。
プロダクト開発においては何より課題解決、世界にもたらしたい変化(ビジョン)が優先されるべきです。もちろん企業の目標のことを何も考えなくて良いという意味ではないです。
ただ、企業目標のことばかりを考えてしまうと短期的な収益増加のための施策をしがちなので注意が必要だと思います。
優れたプロダクトビジョンの特徴
本書にはプロダクトビジョンに関することがかなり詳しく書かれていました。
優れたプロダクトビジョンの特徴
本書では優れたビジョンの特徴して以下の3つを挙げています。
- 世界に実在し、あなたが解決したいと願う問題を中心にしている
- はっきりと想像できる具体的な最終状態である
- あなたと、あなたがインパクトを与えたいと願う人々にとって有意義である
1つ目は言わずもがなですが、個人的にかなり印象に残ったのは2つ目です。
ビジョンと聞くとちょっと抽象度が高いイメージがあるのですが、本書では抽象度が高く漠然としているものはNGと書いています。
具体的に書くことによるメリットはよりチーム全体が同じ方向を向くことができることです。
また「業界No.1のプロダクトになる」のようにプロダクトビジョンとしてビジネス目標を掲げると、顧客の問題を解消するという点から意識が遠ざかってしまいます。ビジョンの中心は世界にもたらそうとしている変化であるべきです。
プロダクトビジョンの作り方
優れたビジョンの作り方として、ラディカル・ビジョンステートメントというテンプレが紹介されている。穴埋めするだけでビジョンを作ることが優れものです。(まあ穴埋め自体は難しいんですけどね…)
現在 [特定のグループ] が [望ましい結果] を望むとき、彼・彼女らは [現状の解決策] しなければならない。この状況は [現行解決策の欠点] のため、受け入れられない。我々は [欠点の克服された] 世界を夢見ている。我々は [テクノロジー / アプローチ] を通じて、そのような世界観を実現するつもりである。
「ラディカル・プロダクト・シンキング イノベーティブなソフトウェア・サービスを生み出す5つのステップ」より
「え、これビジョン?長くない?」と思った方、いませんか?
これまで、ビジョンは誰でも覚えることができるように短い方が言われていたそうです。が、ビジョンはプロダクトを前に進める際に迷った時の判断基準にもなりますし、全員が同じ方向を向くための旗にもなるので、メンバー1人1人が理解することが重要です。
プロダクトビジョンに欠かせない要素
プロダクトビジョンには以下の要素が欠かせないと書かれています。なお、先述したラディカル・ビジョンステートメントの穴埋めができれば自ずと以下の疑問に答えることは可能とのことです。
Who | 誰の世界を変えようとしているのか? 解決したい問題を抱えているのは誰か? |
What | 自分達には世界がどう見ているか? 彼・彼女らは何を目指してどう取り組んでいるか? |
Why | なぜ現状は受け入れ難いのか? ※現状は受け入れ難いものではない可能性もある=課題自体が存在しない可能性? |
When | ビジョンが実現できたを知るのはいつか? |
How | どうやってその変化を生むつもりか? |
When(ビジョンが実現できたを知るのはいつか)に関しては、時間的な側面というよりは「どのような状態になったときにビジョンが実現できたと判断することができるか」という意味です。

RDCL戦略
ラディカル・プロダクト・シンキングのアプローチにおけるプロダクト戦略は以下の4つの問いを中心としています。(プロダクト戦略はどのようなプロダクトにしていくかの方向性と捉えています)
それぞれの頭文字をとってRDCL戦略(ラディカル戦略)として紹介されています。
問い | 説明 |
---|---|
R:リアル・ペイン・ポイント | 人々はどんなリアルな問題を抱えているから、あなたの企業のプロダクトを利用するのだろうか? |
D:デザイン | プロダクトのどんな機能がその問題を解決するのだろうか? |
C:ケイパビリティ(能力) | プロダクトが提供する価値を発揮するためにどれくらいの能力や基盤をが必要か? |
L:ロジスティクス | ソリューションをどうやって届けるか? |
ここを読んで思ったことは
PdMとして全部必要なスキルだー!!!!!
ということです。
プロダクトビジョンを設定したら、常に自問しないといけないなと思いました。
OKRの悪影響
本書の中で意外と印象に残っているのがOKRについてです。
OKRの設定はローカルマキシマムを追求し、グローバルマキシマムから意識を遠ざけてしまう危険性を孕んでいると書かれています。確かになーと思いました。
とはいえ、短期の目標達成が長期的な目標達成に近づけるはずなのでどのようなOKRを設定するかはかなり重要なんだなと改めて感じました。
OKRが未達成になりそうだったら手段を選ばず、それこそ目先の利益のためにその場凌ぎのような施策を打つことにつながってしまうので、OKRが適切ではない場合は途中で変更すれば良いです。固執する必要はないです。
(意外と印象に残っていると書きつつ、もう終わってしまった…)
最後に
現在、所属企業でプロダクトビジョンの策定を試みている最中なのでかなり参考になる内容で読んでよかったです。
この本からそのまま引っ張ってこれるところはたくさんあったので早速活かそうと思います。
読書の仕方についてですが、興味の赴くままに読むのもいいですが、今自分が必要な知識を得るために読むのはかなり効果的だなと肌で感じることができました。
プロダクト開発に関わっている方で「僕たち・私たちはどこに向かっているんだろう?」と思うことがある場合はこの本を読んでみると気づきがあると思います。
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